50「ちょっと知ってる。」
僕たちはたぶん、
ちょっと、知ってます。
たとえば、自分のこと。
生年月日とか住所とか、
銀行の暗証番号だとか、
好きなテレビ番組とか、
怖いものとか、憧れるものとか。
知っています。
でも、
いつ死ぬかとか、どんな表情してるとか、
どんな風に思われてるかとか、
どんなところが愛されてるとか、
明日どんな夕食を食べるのか、とか。
知りません。
自分以外でも同じです。
オクさんのこと、ムスメのこと、友達のこと。
ふるさとの問題、アリの家族構成、
コンビニの仕入れ状況のこと。
知りません。
でもちょっとは知ってます。
世界中のほとんどのことを
ちょっとだけ知っていて、
そして、ほとんど知りません。
知ってる部分が増える、
その何倍も知らない部分が
増えて広がっていくようなもの。
知れる、って喜びです。
貯金するみたいな、昆虫採集するみたいな。
どんどん満たされていくのが気持ちいい。
だけど、知れば知るほど、
その入れ物も大きくなっていって、
いつまでたっても満タンにはならないようで。
でもその知らないってことが
知りたい、っていう気持ちを掻き立ててくれて、
勉強したり、触ってみたり、調べてみたり、
そんなことをするんだと思います。
同じような毎日を暮らしてても、
知らないことはたくさん出会います。
同じ時間を過ごしている家族にも
知らないことはたくさん増えています。
一心同体のつもりでいる自分でさえ、
こうしている今も、広がっているのです。
「知らないということ」
それはきっとプレゼントです。
だから、また、ちょっと知ろうと思うんです。
その先の「知らない」に出会うためにも。
2017年7月 吉井春樹